工場のIoT化でできることは?メリットや取り組み事例をご紹介

近年の科学技術の進歩はすさまじいものです。

現在IoTやAIといった技術の導入が盛んに行われており、その波に乗ることは重要視されています。

中でも工場におけるIoT技術の導入は不可欠とされ、生産効率や製品の品質を高めることが期待されています。

本記事では工場のIoT化についてメリットや課題、そして導入手順を解説していきます。

IoTがもたらす効果について見ていきましょう。

工場のIoT化とは?

工場のIoT化とは、製造業において情報通信技術(ICT)とモノのインターネット(IoT)を活用して、生産プロセスを最適化し、効率性と生産性を向上させる取り組みです。

主な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。

 ・データ収集

 ・品質管理

 ・遠隔監視

 ・作業者支援

工場のIoT化により、生産性の向上・コスト削減・品質改善・意思決定の迅速化などの効果が期待できます。

ただし、導入にはセキュリティ対策や従業員のスキル向上なども考慮する必要があります。
ここでは、工場のIoT化が進む背景や近年の工場における課題について見ていきましょう。

そもそもIoTとは何なのか?

IoTとは「Internet of Things」の略語です。
日本語に直すと「モノのインターネット」という意味になります。

さまざまな機械や製品といった「モノ」に通信機能を持たせることで「インターネット」への接続を可能とする技術を指します。

モノをインターネットに接続させることで、情報の収集や遠隔操作が可能になるため、モノ自体の可能性が広がるわけです。

近年の工場における課題

近年の工場では、データ管理やスケジュール調整の問題や、従業員確保の難しさなど、さまざまな課題が指摘されています。

これらが原因で生産性の低下や発注ミスなどのトラブルも懸念されています。
さらに、イレギュラー対応が不十分な場合、現場作業員の安全が脅かされる可能性もあります。

特に中小企業では、IoTやAIなどの先進技術の導入が遅れており、これらの問題が顕著です。

人とモノをインターネットで繋ぐことで得られる効果は、工場の生産性向上など革新的な技術となりえるため、今工場のIoT化が必要とされているのです。

工場のIoT化は近年のトレンド

IoTという言葉が初めて登場したのは1999年、マサチューセッツ工科大学の研究者ケビン・アシュトン氏が使い始めたとされています。

その後、IoTが世間に広まったのは2010年代後半とされていますが、この時期はスマートフォンの進化とともに科学技術が大きく進歩し、IoTの実用化も加速しました。

総務省の「令和5年 通信利用動向調査」によると、企業におけるIoTやAIの導入状況は16.9%となっており、11.3%はまだ導入していないが導入予定があると回答していることが明らかになっています。

工場のIoT化をする5つのメリット

ここまで述べてきたように、工場のIoT化は現代にとって重要なことです。

では、なぜ工場をIoT化することが重要なのかについて、詳しく見ていくことにしましょう。

この章では工場をIoT化するメリットを5つ紹介します。

人材不足の解消につながる

工場をIoT化するメリット1つ目は、人材不足の解消につながることです。

機械のチェックや管理の記録などさまざまな作業をすべて自動化できるからです。

工場内の機械をネットワークに接続することで異常を自動検知でき、チェックや管理担当者を配置する必要がなくなります。

近年、製造業をはじめ多くの業界で人材不足が課題となっています。

例えば、令和6年7月の厚生労働省統計によると、製造業の有効求人倍率は1.50倍と、全体の1.11倍を上回っています。

IoT化を推進することで人手不足の解消につながるので、課題の解決になるわけです。

工場の生産性向上につながる

工場をIoT化するメリット2つ目は、工場の生産性向上につながることです。

先ほど挙げた人手不足を解消するとともに生産効率のアップが期待できるわけです。

今まで、ひとつひとつ人の手によってチェックされていたことを自動的に機械が判別するようになれば、当然人的資源の削減につながります。

また、人の手で管理するということは、目視でチェックするということになるので、いくら気を付けていてもミスが発生するでしょう。

発注ミスや記録漏れなどのミスがあれば、当然生産ラインへ影響を及ぼしますので、それらのトラブルを無くすという意味でも効率化が図れるのです。

商品の品質向上につながる

工場をIoT化するメリット3つ目は、商品の品質向上につながることです。

生産ラインの状態を機械で記録することでデータ分析が容易になり、プロセスを自動化して品質のばらつきを抑えられます。

人の手で製造するとどうしてもその人のスキルにより個人差が生じてしまい、完全に再現性のある商品の製造というものは困難です。

しかし、機械に任せっ切ることで、計算に基づいた科学的な製造工程を実現できますので、品質が担保できるのです。

さらに、不良品が生産ラインを流れていた場合、IoT技術で早期に検出できるため、ラインの改善や出荷前の不良品回収ができるようになります。

イレギュラー発生の予防保全につながる

工場をIoT化するメリット4つ目は、イレギュラー発生の予防保全につながることです。

生産ラインをネットワークに接続することで、稼働状況をリアルタイムで確認でき、異常があればいち早く気づくことができます。

従来とられていたような一定期間ごとのメンテナンスの体制では、故障や不具合の発見に時間がかかります。

長時間にわたる生産ラインの停止は製造に大きな影響を及ぼすとともに、発注の遅延や生産力の低下などさまざまな危険性を孕んでいます。

そういった二次被害を最小限に抑えるためにも、自動的に問題を発見する予防保全効果を高めることが重要です。

コスト削減につながる

工場をIoT化するメリット5つ目は、コスト削減につながることです。

収益が高くても、製造費用が多ければ利益は減少します。

したがって、「いかにローコストで生産するか」ということは重要な課題です。

工場をIoT化することで、機器のトラブルを早期に発見できたり、人員削減による人件費の減少ができたりというメリットがあることはここまで示した通りです。

このような効果は無駄な出費を抑えることにつながります。

また、工場のIoT化は金銭面のみならず環境面でもコストの削減が可能となります。

故障や不具合の早期発見によって省エネができ、環境にもやさしい工場を実現できるのです。

工場をIoT化するための課題

では、続いて工場をIoT化するための課題について見ていきましょう。

工場のIoT化は様々なメリットをもたらすことが期待されますが、当然コストもかかります。

どのようにして課題を解決すべきかのヒントにしてください。

初期投資のためのコストが必要

工場をIoT化するための課題1つ目は、初期投資が必要な点です。

IoTを導入するにあたっては、ネットワークと機器を接続するためのセンサーの設置や設備の更新を行う必要があります。

もしも既存の設備にセンサーを取り付けることができない場合は、IoT化に対応した設備に一新する必要があります。

また、機器をネットワークに接続するためにはインターネット環境が必須となります。

さらに、導入コストのみならず、導入後も継続的に発生するコストがあることを理解したうえで工場のIoT化を進めていかなければなりません。

専門知識を持った人材の確保が必要

工場をIoT化するための課題2つ目は、専門知識を持つ人材が必要になる点です。

IoTに精通したデジタル人材を確保していなければ、イレギュラー発生時に対応できません。

もしも、既存の人員での管理が困難なのであれば、外部から新たに人材を招き入れる必要があります。

他にも、人材育成によってデジタル対応可能な人員を確保する方法もありますが、外部依頼や育成にはコストがかかります。

そのため、IoT技術にいかに対応するかを見越して導入を考える必要があります。

システムのメンテナンスが必要

工場をIoT化するための課題3つ目は、システムのメンテナンスが必要になる点です。

工場をIoT化することで、自動的なオペレーションを確立できますが、完全に機械任せにはできません。

IoT技術の最終的な目標は「完全なる自動化」ですが、現在はまだネットワークの保守や管理が必要な段階です。

改良や改善を行うことでさらなる効率化を図ることも必要ですし、日々のチェックを確実に行うことで、イレギュラーへの対応を迅速に行うことも求められます。

セキュリティ対策が必要

工場をIoT化するための課題4つ目は、強力なセキュリティ対策が必要になる点です。

機器をネットワークと接続することで、外部とのコネクションが生まれ、サイバー攻撃のリスクが高まります。

IoT機器にもパソコンやスマートフォン同様のセキュリティ対策が求められます。

実際、外部からのサイバー攻撃により情報漏洩や乗っ取り、サーバーダウンといった甚大な被害が生じた事例は数多く報告されています。

マルウェアはIoT機器を遠隔操作し、他の機器にも侵食して攻撃を拡大させます。

脆弱性があるシステムは攻撃対象となりやすいため、DDoS対策を含む十分なセキュリティ対策を行うことが不可欠です。

工場をIoT化するための4ステップ

続いて工場をIoT化するためのステップについて見ていきたいと思います。

目的化、データの収集と評価、システムの構築そして「見える化」の実行の4ステップです。

それでは順番に解説していきましょう。

Step1:目的の明確化

工場をIoT化するためのステップとしてはじめに行うべきことは目的の明確化です。

そのためには、まず現状を把握し、自社の稼働状況や課題を可視化する必要があります。

そうすれば、生産ラインに問題がある、不良品発生件数が多いといった課題が見えてきます。

そのうえで、IoT化する必要があるのか考えるとより目的を設定しやすくなります。

目的としては、例えば生産ラインや作業工程の効率化、少ない人員でも問題なく製造できる体制を作る、イレギュラー発生時の保全効果を高めたいといったものが挙げられるでしょう。

自社の課題解決にIoT化が有効であれば、導入の意味があるといえます。

論理的に必要性を判断したうえで検討することが重要です。

Step2:データの収集と評価

工場をIoT化するためのステップ、2つ目はデータの収集と評価です。

例えば、工場の生産効率を高めることをIoT導入の目的とするのであれば、生産ラインに関するあらゆるデータを算出する必要があります。

時間がかかる作業や人的ミスの原因を見極め、「なぜ自動化するのか」を明確にしましょう。

そのうえで、課題解決に必要な対策を検討し、どの部分を機械に任せるべきかを判断します。

トライ・アンド・エラーを繰り返し、最適なデータの収集が完了すれば次のステップです。

Step3:システムの構築

工場をIoT化するためのステップ、3つ目はシステムの構築です。

データの評価に基づき、必要なシステムを構築することで、目的達成のための手段を作り上げることが可能となります。

IoTはセンサーやネットワーク、クラウドを活用してモノをインターネットに接続する技術です。

まずは、モノにセンサーを取り付け、ネットワーなどと接続することで自動化させます。

さらに、AIの技術も駆使すればより高度な効果を発揮するでしょう。

センサーを介してモノがネットワークに接続されると、管制室で一元管理が可能になり、リアルタイムでの情報共有によるトラブルの早期発見にもつながります。

Step4:「見える化」の実行

工場をIoT化するためのステップ、4つ目は「見える化」の実行です。

IoTの最終的な目標はさらなる自動化といえます。

そのため、より可視化できる環境を作り上げることが大切になってくるのです。

AIを用いて将来的な生産に対する予測を立てたり、在庫管理を自動化したりすることでますますIoT技術の活用が可能となります。

管制官がいなくても完全に自動で生産ラインを稼働させることができる工場というものが完成すれば技術革新に近づくのではないでしょうか。

工場・製造業のIoT化における成功事例

工場をIoT化するとどのようなベネフィットが得られるのでしょうか。

この章では工場や製造業でのIoT化による成功事例を見ていきましょう。

今回は機械工場と食品工場の2つの現場にスポットを当てることにします。

機械工場の事例

はじめに機械工場における成功事例を紹介します。

機械工場において報告されている成功事例は具体的には次のような内容となっています。

生産力の向上

製造業界においては品質を担保しながら効率を向上させることが求められます。

そんな特徴を持つ製造業界はIoTの性質とマッチしているのではないでしょうか。

IoTを工場に導入することで、生産ラインを止めずにメンテナンスができるようになったことで、無駄な時間を削減できたという声があります。

つまり、生産力の向上を実現したということです。

また、作業におけるロスを低減させることで、時間の有効活用ができたという声もあるように、工場のIoT化は生産力と品質のアップが期待できます。

見える化の推進

工場をIoT化する際のステップとして最終段階に位置付けられているのが「見える化」です。

稼働状況が一目でわかる、受注量が可視化できるといったように生産に直接関わる分野における見えるかは求めるべきIoTの姿でしょう。

しかし、それだけでなく、社内の円滑なコミュニケ―ションにもIoTが役立てられることが期待されます。

タブレットを用いた情報共有などを実行すれば、IoTはモノをインターネットに繋ぐのみならず、人と人を繋ぐアダプターにもなり得るのです。

食品工場の事例

続いて、食品工場における成功事例を紹介します。

食品工場では2021年6月よりHACCP対応が全ての工場において求められるようになりました。

HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)はアメリカを起源とする食中毒や異物混入を防止するための衛生管理の手法です。

そのため、食品工場では、温度管理や衛生検査などを厳格に行うことが求められるのです。

そんなHACCP対応にもIoTがマッチしているといえます。

温度管理の自動化

HACCP対応において冷蔵庫などの設備や調理時の温度管理が重要です。

例えば、ハンバーグを製造する時には、保存時に庫内温度を一定に保つことで菌の増殖を防ぎ、調理時には加熱中に中心温度を一定に保つ必要があります。

これまでは、加熱中に温度計を用いて中心温度を計測するというような対応が取られていましたが、自動で温度チェックを行うことができれば、作業効率の向上につながります。

検査の自動化

食品工場では定期的に検査が実施されますが、今までは人の手による目視検査が一般的でした。

目視では、チェックの抜け漏れが懸念されますし、属人化の課題が生じます。

しかし、一方、IoTによる自動検査を導入すれば、一定の基準で過不足なく管理できて検査基準のばらつきがなくなります。

また、製品の個体差を細かくチェックすることで、品質の均一化にもつながりますので、IoTによる自動化が期待できる分野だといえるでしょう。

工場のIoT化に関するまとめ

工場をIoT化すると、生産効率・商品品質の向上などさまざまなメリットが得られる一方で、初期コストやメンテナンス、セキュリティ対策といった課題があるのも事実です。

しかし、目的を明確にし、データ収集やシステム構築を計画的に進めることで、失敗を防ぎ、効率的にIoT技術の力にあやかることができます。

そして、最終的には「見える化」ができる環境を手に入れることができます。

令和5年における企業のIoTやAI導入状況は16.9%とまだまだ低い数値ですが、導入を検討している企業も一定数あることから、今後の躍進に期待したいところです。

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