近年、医療や介護の現場では、記録業務の電子化や見守りセンサー、遠隔診療端末など、IoT機器の導入が加速しています。
業務の効率化や人手不足の解消を目的に、国の支援制度を活用しながらICTを取り入れる施設も増加傾向にあり、通信インフラの整備が不可欠な要件として明確に位置づけられつつあります。
しかしその一方で、通信不良による記録遅延やネットワーク不安定によるセンサー機能の停止など、インフラ面の課題がボトルネックとなって導入効果が十分に発揮されないケースも散見されます。
本記事では、現場における通信環境の課題とその解決策を整理し、IoTを有効に機能させるために必要な通信インフラの再構築のポイントをわかりやすく解説していきます。
医療・福祉業界で進むIoT導入|2025年の現場トレンドとは

介護や医療の現場では、2025年現在、IoTやICTを活用した業務効率化と品質向上の取り組みが加速しています。
背景には、少子高齢化による人手不足や業務の属人化、ケアの質の地域格差といった構造的課題があり、それらを解決する手段として技術導入が本格化しています。
政府もこの流れを後押ししており、たとえば2023年度から継続されている「介護ロボット導入支援事業」や「ICT導入支援事業(厚労省)」では、見守りセンサーや記録ソフトの導入に加え、それらを支える通信環境の整備費用も補助対象とされています。
また、2024年度の介護報酬改定では、「ICT活用による記録の効率化」「業務改善の取り組み」が評価される新たな加算も設けられました。
こうした制度的後押しにより、ICT・IoTの活用は“検討段階”から“導入が前提”というフェーズへと進みつつあります。
活用シーン例|医療・介護現場で広がるIoT活用法

ICT・IoT機器は、業務の効率化にとどまらず、ケアの質や職員の働きやすさを支える手段として医療・介護の現場に広がりつつあります。
ここでは、現在広く普及が進んでいる代表的な導入例をご紹介します。
・見守りセンサーによる離床通知
・クラウド型電子記録システムの活用
・オンライン面会・遠隔診療の導入
・IP無線/ナースコールのIP化
順番に解説していきます。
センサーで離床を検知|夜間巡回の省力化と事故防止に
高齢者のベッドに設置した見守りセンサーが、体の動きや離床のタイミングを感知し、職員のスマートフォンやタブレットにリアルタイムで通知を送ります。
これにより、夜間の定期巡回を必要最小限に抑えつつ、転倒リスクのある離床時にはすぐに駆けつけることができるため、職員の負担軽減と利用者の安全確保の両立が可能になります。
クラウド型記録システムで情報を一元管理|入力・引き継ぎを効率化
ケア内容やバイタルデータ(体温・血圧・脈拍など)を記録する際に、従来の紙媒体から、クラウド型の電子記録システムへと移行する施設が増えています。
現場のスタッフがスマートフォンやタブレットからその場で入力・確認できるため、訪問介護や夜勤帯でもリアルタイムな共有が可能です。
記録の標準化・誤記防止・引き継ぎの簡素化に加えて、情報の蓄積・分析によるケアの質向上も期待できます。
オンライン面会・遠隔診療|家族・医師とつながる環境整備
タブレット端末を活用し、入居者と家族がビデオ通話で面会できる環境を整える施設が増えています。
感染症対策や外出困難な高齢者に配慮しつつ、家族とのコミュニケーションを保てる手段として定着しつつあります。
また、医師による遠隔診療を導入する事業所では、施設内から映像を通じて医師が問診・診断を行える体制が整えられています。
医療資源の少ない地域でも専門医の診察が受けられるようになり、地域医療の格差解消にもつながっています。
IP無線やナースコールをネット連携|緊急対応力と情報共有を強化
施設内の連絡手段として使われるナースコールや無線連絡を、インターネットを介して管理・運用する「IP化」が進んでいます。
ナースコールの呼び出し情報がリアルタイムで関係者に共有されるほか、通知履歴を記録・一元管理できるため、連絡ミスの防止や対応漏れの抑制につながります。
音声だけでなく、端末上でのビジュアル通知なども可能になり、複数フロア・スタッフ間での連携が格段にスムーズになります。
今後も制度面の後押しと現場ニーズの高まりを背景に、さらなる拡大が期待されています。
IoT活用を阻む“通信インフラの壁”とは?

医療・介護の現場でICT・IoT機器を導入しても、それらの機能を十分に発揮するためには「安定した通信環境」が欠かせません。
しかし、多くの現場では以下のような“通信インフラの課題”が顕在化しています。
「施設内の一部エリアでWi-Fiが届かず、センサー通知が届かない」
「クラウド記録システムが読み込みに時間を要し、業務が滞る」
「建物の構造・壁材が電波を遮り、通信が不安定になる」
「タブレット端末でのビデオ通話が途切れる、映像が固まる」
「来客用の個室・VIPルームなどで通信が使えず、応対に支障が出る」
これらの問題は、業務効率だけでなく、利用者やご家族の不安感、施設全体の信頼性にも直結する深刻な要素です。
特に、現代の医療・福祉現場では「通信を前提とした業務」が急速に広がっており、ネット環境の脆弱性は施設運営そのもののボトルネックとなりかねません。
こうした背景から、通信インフラの整備は単なる技術的な投資ではなく、「業務の土台を支える経営基盤」として捉えるべき段階に入っています。
安定した通信環境の確保は、今後ますます重要な経営課題となっていくでしょう。
関連記事:ゲストWi-Fiの設定方法:正しい構築方法で安全性を高めよう
政府・自治体も後押し|通信整備の支援制度

医療・福祉現場のICT・IoT導入は、国全体の方針としても後押しされており、通信環境の整備に対する支援制度が年々拡充されています。
これにより、現場での導入ハードルは徐々に下がりつつあり、「費用面の不安」や「通信インフラの構築ノウハウ不足」といった課題に対しても、具体的なサポートが用意されています。
ここでは、厚生労働省が主導する代表的な支援制度と、地方自治体が独自に取り組む具体事例を紹介します。
介護現場におけるICT導入支援事業(厚生労働省)
■制度の概要
厚生労働省が全国の介護事業所に向けて実施するICT導入支援制度であり、介護サービスの質向上と人手不足の解消を目的としています。
■目的
現場の業務効率化や情報共有の円滑化、利用者の安全管理を支えるICT・IoT機器導入を支援します。
■補助対象の例
・Wi-Fiルーターやアクセスポイントの設置
・クラウド型記録システムと接続する端末(タブレットなど)
・センサー付き見守り機器
■補助額・率
・ICT導入支援の上限:職員数に応じて100万円~250万円(または260万円)
・パッケージ導入の上限:400万円以上~1,000万円以下(都道府県ごとに設定)
■補助条件
対象施設:特養・老健・通所・訪問事業所など広範囲
補助率:概ね1/2〜3/4(自治体により変動)
■注意点
通信機器そのものは補助対象となる一方、通信費(月額利用料)は原則補助対象外となる点に注意が必要です。
出典:厚生労働省「ICT導入支援事業 実施状況等」資料(PDF)
自治体の独自支援|地域密着型の柔軟な制度
■制度の概要
地方自治体では、現場に即した支援を行うため、独自にICT導入や通信整備を支援する補助制度を展開している地域もあります。
■目的
小規模事業所や在宅訪問を中心とする現場でも、安心してICT機器が活用できる環境を整えるための支援です。
■補助対象の例
・ポケットWi-FiやSIM付き端末の購入
・外出先でも記録・連携が可能なクラウドシステム環境の整備
・訪問先でのオンライン面会・診療に対応する通信端末
■補助条件
施設の規模や業態によって異なりますが、多くの制度では「実際に現場で活用すること」が申請条件となります。
■注意点
月額通信料の補助可否は自治体によって異なります。公募要領を必ず確認しておきましょう。
【事例】神奈川県|介護ロボット・ICT導入支援補助金
■制度の概要
神奈川県が実施する、介護ロボットおよびICT機器の導入支援制度です。「介護現場の生産性向上」を目的に、通信機器やクラウド環境整備の費用を補助します。
■目的
介護現場での業務負担軽減や情報共有の効率化、記録のクラウド化を推進することで、働きやすい職場環境の創出とサービス品質向上を図ることが目的です。特に“通信インフラ整備”も重視されています。
■補助対象の例
・Wi‑Fiルーターやアクセスポイントの購入・設置
・クラウド型記録システムへの接続に必要な通信ネットワーク
・見守りセンサーなどICT機器を運用するためのネットワーク整備
■補助額・率
・ICT導入支援:導入経費の5/4分の補助(補助率80 %)
・上限:施設規模に応じて100 万円~260 万円(職員数による設定)
■補助条件
神奈川県内の介護事業所・施設が対象です。
申請には、業務改善に関する事前研修受講または専門家による支援が必要です。
■注意点
通信回線の月額費用や保守・管理費等は補助対象外です。
また、一部機器(例:ナースコール)に関しては対象外となる場合があります。
出典:神奈川県介護保険事業費補助金(ICT導入支援事業費補助金)交付要領
通信環境整備における課題と導入時の注意点

ICT・IoT導入を進めるうえで見落とされがちなのが、通信インフラ整備の質です。
多くの現場では、とりあえずWi-Fiを導入すればよいと考えがちですが、実際には運用を前提とした設計や機器選定がされていないことで、かえってトラブルを招くケースも少なくありません。
ここでは、介護・医療現場で実際に発生しやすい“導入時の落とし穴”と、失敗しないための注意点をご紹介します。
≪導入設計でよくある見落としポイント≫
「通信機器の設置場所が実際の導線と合っていない」
→ 職員の動線や利用者の居室に電波が届かず、センサー通知や記録操作ができないエリアが生じることがあります。
「機器の同時接続数を想定していない」
→ スマートフォン・タブレット・見守り機器など、多数の端末が一斉に通信する場面を想定せず、回線速度が著しく低下するトラブルも。
「PoE給電や中継器など柔軟な設計が不足」
→ LAN配線が届かない部屋や、電源が取りにくい箇所への対応が不十分で、現場のレイアウトに合った構成がされていないケースもあります。
「通信セキュリティ対策が後回しになっている」
→ 業務用Wi-Fiと来客用のネットワークを分けていない、パスワード管理が甘いなど、個人情報保護上のリスクも見られます。
≪運用開始後に起きやすい盲点≫
「シフト時間帯の通信ピークに対応できない」
→ 記録作業が集中する時間帯(例:朝・夕方)に回線が混雑し、データの保存や読み込みに支障が出るケースがあります。
「VIPルームや来客用個室で通信がつながらない」
→ 個室・面会室などでネットが不安定になり、オンライン面会や医師とのリモート診察が中断されるなど、外部からの信頼を損なう事例も。
「通信障害発生時のバックアップ手段がない」
→ モバイル回線や別系統のルートが用意されておらず、通信障害が起きた際に現場が一切の業務を止めざるを得なくなる事例も報告されています。
これらのリスクは、「通信機器を買ったから安心」では防げません。現場に即した回線設計・設備配置・セキュリティ対策・通信バックアップ体制を含めて総合的に構築することが、ICT・IoT導入の“本当の意味での成功”に直結します。
利用シーンに応じた通信手段の選び方と「可搬性」

通信インフラの整備を検討する際には、施設全体に固定でWi-Fi環境を構築するだけでなく、現場での働き方や業務形態に応じた通信手段の選択が重要です。
特に、訪問看護や訪問介護、サテライト拠点を活用した地域連携型の施設など、「移動を伴う働き方」が主流となる現場では、固定回線だけでは通信を十分にカバーできないケースも多くあります。
“どこでもつながる”を支える通信手段の組み合わせ
通信環境を整備する際は、「どこで・誰が・何をするか」に応じて、最適な通信手段を柔軟に組み合わせることが重要です。
以下は、代表的な利用シーンにおける通信環境構築の例です。
〇施設内全体の通信をカバーする場合
→光回線+業務用Wi-Fiルーター
高速通信かつ安定した回線で複数階や広いフロアでも同時接続に強く、記録・見守り機器を一括管理できます。
関連記事:【2025年3月最新】業務用Wi-Fiルーターおすすめモデル5選
〇施設の一部エリア(離れ棟・屋外スペースなど)の場合
→中継器やアクセスポイント
従来の通信環境に追加設置することで、電波が届きにくい場所にもWi-Fiを行き届かせることが可能です。離れた居室や屋外の見守りにも対応できます。
関連記事:業務用Wi-Fiアクセスポイントのメリット|家庭用との違いも解説
〇訪問看護・介護などの移動業務の場合
→SIM付き端末・ポケットWi-Fi
訪問先や車中でも電子記録やオンライン連携がスムーズになります。固定回線が使えない現場でも安心です。
関連記事:法人向けポケットWi-Fi25社比較|目的別おすすめサービスを紹介
〇災害時・通信障害時のBCP対策を行う場合
→予備用ポケットWi-Fi・LTEルーター
常備しておくと停電・障害時でも最低限の通信を確保できるため、業務の継続性を保てます。
関連記事:会社のWi-Fiが繋がらない場合の原因とは?原因別の対処法を徹底解説
通信インフラは「どこでも・だれでも・いつでも」つながることが大切です。
固定回線をベースにしつつ、可搬型や予備通信手段を組み合わせることで、より強靭で実用的なネットワークを構築できます。
このように、施設の形態・利用者との接点・緊急対応時といった複数の視点から、最適な通信手段を組み合わせることが求められます。
現場で求められる“可搬性”という視点
近年では、通信インフラの「可搬性(ポータビリティ)」も重要なポイントとして注目されるようになっています。
これは、インターネット環境が固定された場所だけでなく、移動先や一時的な利用場所でも安定して通信できることが求められるようになっているためです。
たとえば、以下のような現場ニーズが挙げられます。
「外出先で電子記録を即時入力したい」
「利用者宅で家族とビデオ通話を行いたい」
「建物の増築や仮設スペースで一時的にネットを使いたい」
といったニーズに対しては、持ち運びができるポケットWi-FiやSIM端末等が有効になります。
こういった通信機器には、次のような特徴があります。
・工事不要かつ持ち運び自由で、すぐに使える
・通信インフラが整っていない場所でも対応できる
・BCP対策として、予備回線としても機能する
固定回線に依存せず、必要な場所に通信環境を持ち出せる体制を整えることで、現場の柔軟性と対応力を高めることができます。
また、BCP(事業継続計画)の観点からも、「通信のバックアップ手段」として、モバイル型通信機器を常備しておくことは有効です。
業務の内容や緊急時のリスクも踏まえながら、通信インフラは「固定と可搬」のハイブリッドで考えることが、これからの医療・福祉現場における通信戦略のカギとなるでしょう。
ポケットWi-Fiなら「ロケモバWi-Fi」がおすすめ

医療・介護の現場で“すぐに使える”“どこでもつながる”通信環境を整えるうえでは、SIMを挿す手間もなく、すぐに電源を入れて使えるポケットWi-Fiが便利です。
「ロケモバWi-Fi」は、ロケットモバイルの法人向けのポケットWi-Fi端末レンタルサービスです。SIMやルーターを個別に用意する必要がなく、多様な用途で使用できるのがうれしいポイントです。
〇電子カルテや介護記録システムのモバイル運用
→院内・施設内や訪問先で、電子カルテや介護記録システムへのアクセス・入力がどこでもでき、業務効率化に貢献します。
〇モバイル端末やICT機器の活用
→タブレットやセンサー機器、無線ナースコール、オンライン面会端末など、ネット接続が必要な機器を簡単に運用できます。
〇利用者サービスの向上
→患者や入所者、来院者向けのWi-Fi提供にも活用でき、待ち時間のストレス軽減や満足度向上につながります。
〇新規開設/仮設施設・災害時にも強い
→工事不要・即日利用可能なため、開設直後や災害時の臨時ネットワーク構築にも適しています。
また、以下のような導入のしやすさも大きな魅力です。
☑ 柔軟なデータプラン・高速通信対応
☑ 1つの端末で最大10台まで同時接続可能
☑ 縛りなし・1回線から導入可能
「現場で今すぐ使える通信手段を探している」「手間なく導入したい」という方は、以下のページから詳細をご確認ください。
まとめ|通信整備は“現場力”を高める投資
医療・福祉の現場では、ICT・IoTの活用が「あると便利」ではなく「導入が前提」の時代に入っています。そのなかで通信インフラは、業務効率・安全性・ケア品質のすべてを支える土台です。
特に、高齢者施設や在宅ケアのように多様な環境でネットを活用する現場では、「固定インフラ」と「ポータブルインフラ」をうまく使い分けることが、柔軟で強靭なネットワーク整備のカギになります。
政府や自治体による支援制度も充実しており、適切に活用すれば、導入コストや手間を抑えながら効率的な整備が可能です。
通信環境の見直しを行い、持続可能で安定した現場づくりを進めていきましょう。