世界的なエネルギー需要の高まりと脱炭素化の流れを受け、SMR(小型モジュール炉)が次世代の安定電源として注目されています。再エネの限界を補い、産業やデータセンターなど幅広い分野で導入が加速しています。この記事では、SMRが注目される背景や市場動向、主要企業の取り組みについて解説します。
なぜ今SMRが注目されているのか

2025年現在、再生可能エネルギーの導入拡大や脱炭素化の流れを背景に、SMR(Small Modular Reactor)市場は急速に注目を集めています。この背景には、地域分散型電源としての需要増加や、大規模施設・データセンター向けの安定電力供給ニーズの高まりが挙げられます。
調査会社の予測によると、SMR市場は2025年の約75億ドルから2034年には約161億ドルに拡大し、年平均成長率(CAGR)は8.9%と高い成長が見込まれています。こうした市場の拡大により、SMRは世界の電力供給インフラに柔軟性と安定性をもたらす技術として注目されています。
SMRとは何か?

SMR(Small Modular Reactor)とは、直訳すると「小型モジュール炉」です。従来の大型原子炉を小型化し、モジュール単位で工場生産・現地組み立てが可能な設計を持つ、次世代の原子炉です。
従来の原子炉が「大規模設備で発電する」ことを主目的としていたのに対し、SMRはさらに以下の特徴を持ちます。
- 小型・分散設置可能:1基あたり3〜30万kW程度の出力で、都市部や離島、山間部、データセンターなどさまざまな場所に柔軟に設置可能
- 高い安全性:受動冷却(Passive Cooling)を採用し、外部電源や人為操作に頼らず炉心を冷却できるため、メルトダウンリスクを大幅に低減
- 運用コストの低減と長寿命化:燃料交換サイクルが長く、自動化技術を活用することで少人数運用も可能
- 分散型電源としての柔軟性:地域や施設単位で電源を分散でき、中央集権型発電所に依存せず安定した電力供給を確保可能
小規模かつ柔軟に設置できることにより、地方自治体や企業、大学、データセンターなど、多様な主体が自前で電源を確保できる点が、従来型原子炉にはない大きな強みです。
SMRは、単なる「小型原子炉」ではなく、地域や施設単位で柔軟に電源を分散できる次世代の発電技術として、将来のエネルギーインフラにおける重要な選択肢のひとつと位置づけられています。
従来のエネルギー産業との違い

SMRは従来の大型原子力発電所や中央集権型電力網と比べて、特に柔軟な設置性と分散運用に最適化されている点が大きな特徴です。以下に主な違いをまとめます。
- 設置規模と柔軟性
従来の原子力発電所は数百万kW規模の大型設備で広大な敷地を必要としますが、SMRは数十万kW程度の小型設計で、都市部や離島、データセンターなど多様な場所に設置可能です。 - 安全性と運用方式
従来型は外部電源に依存した能動冷却が中心ですが、SMRは受動冷却を採用し、外部電源や人為操作に頼らず炉心を冷却可能。万一のトラブルでもメルトダウンリスクを低減できます。 - 分散型電源としての運用
従来の中央集権型電力網は大規模送電網に依存するため、特定地域での停電リスクがあります。SMRは地域や施設単位で電源を分散でき、電力供給の柔軟性が高まります。 - コスト構造と運用効率
大型原子炉は建設・運転コストが高く、運用には多数の人員が必要ですが、SMRはモジュール化による工場生産と自動化技術により、少人数での運用や建設コスト抑制が可能です。
これらの特徴により、SMRは従来の「大規模・中央集権型」の電力インフラとは異なり、地域や施設単位で柔軟に電源を確保できる次世代の発電技術として注目されています。
AI需要で拡大するSMR

生成AIや大規模データ解析の普及に伴い、データセンターの電力需要は急速に増加しています。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、AIデータセンターの年間電力消費量は2030年までに約945テラワット時(TWh)に達するとされており、日本の年間電力消費量に匹敵する規模です。この急増する電力需要に、従来の再生可能エネルギーだけでは安定的に対応することが難しくなってきています。
こうした背景の中、安定した電力供給が可能であり、低炭素で出力を柔軟に調整できることから、SMRはAIデータセンター向けの電源として注目を集めています。
米国の主要テック企業は、こうした市場のニーズに応える形で、SMR開発への投資を積極的に進めています。代表的な取り組みは以下の通りです。
| 企業名 | プロジェクト名 / 協力企業 | 計画内容 |
|---|---|---|
| Amazon | Cascade Advanced Energy Facility / Energy Northwest、X-energy | ワシントン州リッチランドに最大960MWの電力を供給可能なSMR施設を建設予定。初期4基、最終12基導入予定。 |
| Google(Alphabet) | – / Kairos Power | 米国内に最大7基のSMRを建設予定。2030年に初号機の運転開始を目指す。 |
| Microsoft | – / Constellation Energy | 米ペンシルベニア州スリーマイルアイランド原子力発電所を再稼働させ、データセンター電力に活用予定。 |
| Constellation Energy | – / CEO: Joe Dominguez | 21基の原子炉を運転し、AIデータセンターの電力需要に対応。Calpine社買収でAI関連電力供給を強化。 |
AI社会の急速な拡大により、データセンターの電力需要は従来の供給方法では追いつかない状況が生まれています。そのため、SMRは安定かつ低炭素で高効率な電源として注目され、今後、AI社会を支える重要なインフラとしての役割が期待されています。
SMR市場を牽引する主要企業

SMRの主要企業は、次世代原子炉技術の新興勢力として注目されています。
| 企業名/ティッカー | 本拠地/強み | 主要実績(2025年) |
|---|---|---|
| Oklo Inc./OKLO | 米国/ナトリウム冷却型高速炉 | Aurora炉建設開始、株価570%上昇 |
| NuScale Power/SMR | 米国/軽水冷却型SMR | 設計認証取得、段階的建設・運用が可能 |
| Centrus Energy/LEU | 米国/高濃縮ウラン(HALEU)燃料 | HALEU商業生産開始、株価550%以上上昇 |
| Terrestrial Energy/NEE | カナダ/統合溶融塩炉(IMSR) | IMSR商用化準備、欧米での規制承認進行 |
| Okuma Energy/6103 | 日本/小型原子炉開発 | 国内実証炉建設計画、地元自治体と協力 |
Oklo Inc.はAurora炉の建設を開始し、株価は年初来570%上昇と大きな注目を集めています。
NuScale Powerは米国で設計認証を取得し、段階的な建設と運用が可能なモジュール式SMRを提供しています。
Centrus Energyは次世代SMR燃料の商業生産を開始し、株価は550%以上上昇しました。
カナダのTerrestrial EnergyはIMSRの商用化を進め、欧米で規制承認を得つつあります。
日本ではOkuma Energyが国内実証炉の建設計画を進め、自治体や企業と連携しています。
これらの企業は、政府の支援や市場の需要拡大を背景に、SMR市場を牽引する存在として注目されています。
SMR市場規模と成長予測

SMR市場は、再生可能エネルギーの導入拡大や脱炭素化の流れを背景に、今後大きな成長が見込まれています。特に、地方自治体や企業、データセンターなどでの分散型電源需要の増加、既存原子力発電所の更新・代替ニーズ、政府のエネルギー政策が市場拡大を後押ししています。
世界市場の予測
調査会社Precedence ResearchによるSMR市場規模の予測は以下の通りです。
| 年度 | 市場規模(推定) |
|---|---|
| 2025年 | 約75億ドル |
| 2026年 | 約82億ドル |
| 2034年 | 約161億ドル |
出典:Small Modular Reactor Market Size, Share, and Trends 2025 to 2034
およそ10年で約2倍以上に拡大する計算で、年平均成長率(CAGR)は8.9%と、高い成長が見込まれています。
日本市場の予測
日本国内でも、エネルギーの安定供給と脱炭素化に向けたSMR導入の検討が進んでおり、地方自治体や産業向けの小規模電源としての需要が拡大しています。
| 年度 | 国内市場規模(推定) |
|---|---|
| 2024年 | 約0.8億ドル(約120億円) |
| 2030年 | 約12億ドル(約1,800億円) |
※これらは推定値であり、正式な政府統計や一次調査データに基づくものではありません。
日本市場では、原子力規制の承認プロセスや地元自治体との協力が進むことで、世界市場と同様に急速な拡大が期待されます。
世界・日本ともに、再生可能エネルギーだけでは賄えない安定電源としてSMRの需要が高まることから、今後は既存発電所の補完や地域分散型電源の核として、SMR市場の成長はさらに加速すると考えられます。
SMRがモバイル通信に与える影響

SMRの普及は、モバイル通信環境にも間接的に大きな影響を与えます。特にデータセンターや通信基地局への安定電力供給という観点で以下のポイントで整理できます。
| 項目 | 影響内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 安定電力供給 | データセンターや基地局の稼働を継続可能 | 5G/6G基地局、クラウドサービス用サーバー |
| 分散型電源活用 | 地域単位で電源を分散でき、停電リスクを低減 | 離島や山間部でのモバイル通信網の安定化 |
| データセンターの電力効率向上 | 低炭素・高効率な電力供給により運用コストを削減 | AI推論、IoT端末、AR/VRサービス |
| 災害耐性の強化 | 自然災害時にも電源を確保し、通信サービスを維持 | 緊急通報システム、災害情報配信 |
| エネルギーインフラの拡張 | 企業や自治体が独自にSMRを導入することで通信ネットワークを強化 | 地方自治体のスマートシティ構想、企業のIoTネットワーク |
SMRは、単なる発電手段ではなく、モバイル通信社会を支える安定電源としての役割も果たします。これにより、5G/6GやIoT、エッジコンピューティングなど、次世代通信社会での新しいサービスやアプリケーションが安定して運用可能となります。
まとめ
エネルギー需要の増大や脱炭素化の流れを背景に、SMR(小型モジュール炉)への注目が急速に高まっています。再生可能エネルギーの供給変動を補完し、産業・データセンター・地域インフラなど多様な分野で安定的な電力を提供できる点が評価されています。SMRは、建設期間の短縮や安全性の高さ、柔軟な設置性から、次世代エネルギーインフラとして世界的に導入が進みつつあります。


