近年、テレワークや自社サーバー運用、リモート監視など、社内ネットワークの用途が多様化する中で、「Wi-Fi環境に固定IPアドレスを導入すべきか?」という問いに直面する企業も増えています。
固定IPアドレスの導入によって、接続の安定性やアクセス管理、セキュリティ強化といった面でさまざまなメリットが期待できます。その一方で注意点やリスクもあるため、「なんとなく必要そう」では導入判断できないのが実情です。
本記事では、IPアドレスの基本から固定IPと動的IPの違い、固定IPの活用が適しているシーン、導入メリット・デメリット、設定・確認方法までを網羅的に解説します。自社のネットワーク構築やWi-Fi環境の見直しを検討している方は、判断材料としてぜひご活用ください。
IPアドレスについての前提知識
固定IPアドレスの活用方法やメリットを正しく理解するには、そもそも「IPアドレスとは何か」を知っておくことが欠かせません。ここでは、IPアドレスの基本的な役割から、固定IPと動的IPの違いまでを整理し、ビジネス現場での運用をスムーズにするための基礎知識を解説します。
IPアドレスの概要
IPアドレスとは、ネットワークに接続する機器に割り当てられる「インターネット上の住所」のようなものです。
IPアドレスは本来、コンピュータが処理しやすい2進数(0と1の組み合わせ)で構成されていますが、人間が扱いやすいように、通常は10進数で「192.168.0.1」のように表記されます。IPv4の場合は32ビットで構成され、4つの数字ブロック(各8ビット)で表現されます。
各機器には一意のIPアドレスが割り振られ、通信時の送信元や送信先を正確に特定する役割を担います。
IPアドレスには大きく分けてグローバルIPアドレス(インターネット接続時に使用するアドレス)とプライベートIPアドレス(社内LANや家庭内ネットワーク内で使うアドレス)がありますが、本記事では主にインターネット接続時のグローバルIPアドレスについて説明していきます。
固定IPアドレスとは|常に同じ番号に接続
固定IPアドレスとは、インターネット接続時に常に同じIPアドレスが割り当てられる仕組みです。
通常、プロバイダと契約すると後述する動的IPアドレスが自動的に割り当てられますが、固定IPアドレスのオプション契約をすることで、ネットワーク設定を変更しない限りずっと同じIPアドレスが使われ続けます。
これにより、遠隔監視やVPN接続、特定機器への外部アクセスなどが安定して行えるようになります。
動的IPアドレスとは|接続先の番号が変わる
動的IPアドレスは、インターネットに接続するたびに異なるIPアドレスが自動的に割り当てられる方式です。
多くのプロバイダ契約ではこの動的IPアドレス方式が採用されており、接続のたびに使用されていない空きIPアドレスがランダムに割り当てられます。
動的IPは都度アドレスが変わっても、メール送受信やWeb閲覧など一般的な利用であれば特に問題はありません。
しかし、後述するようにサーバ経由のリモートアクセスなど特定の機器同士で継続的に通信を行う用途では、IPが変わることで支障が出る場合があります。
固定IPアドレスが活用できるシーン
では、どのような場面で固定IPアドレスが必要になるのでしょうか。ここからは固定IPアドレスを導入すべき代表的なシーンを具体的に紹介します。
ポイントは、「アクセスするたびにIPアドレスが変わってしまうと困るケース」や「特定のIPアドレスをあらかじめ決め打ちして通信したいケース」です。
自社でホームページを公開するとき
自社サーバで自社ホームページやWebサービスを公開する場合、固定IPアドレスが必須です。
レンタルサーバーなどを使わず社内のサーバーでWebサイトを運用する際、サーバに固定IPアドレスを割り当てておかないと、アクセスのたびにサイトの宛先(IPアドレス)が変わってしまい利用者がページを開けません。
また、クラウドではなくオンプレミスでWebサーバーを運用するとレンタル費用がかからない反面、固定IPサービスの契約は必要になります。自社専用サーバー運用時には固定IPアドレスでアクセス先を固定することで、無駄なコストやトラブルを抑えられます。
ネットワークカメラ利用時
防犯カメラなどのネットワークカメラを遠隔からモニタリングする場合も、固定IPアドレスが役立ちます。
例えばオフィスの監視カメラ映像を外出先からチェックしたいとき、カメラ(または設置先ルーター)に固定IPが割り当てられていれば、その変わらない住所を頼りに常時映像へアクセスできます。
さらに、停電や機器再起動時にもIPが変わらないため、トラブル復旧時にもスムーズに再接続できます。
VPN利用時
遠隔地間で安全な通信を行うVPN(Virtual Private Network)でも固定IPアドレスが重宝されます。
VPNはインターネット上に構築する仮想の専用通信網で、例えば本社と支社のネットワークをインターネット越しに繋ぐ際によく使われます。両拠点のルーター等に固定IPアドレスを割り当ててVPNを構築すれば、お互いの拠点を固定された住所で結ぶことができ、まるでLANで直結したかのように安定した通信が可能です。
また、VPNのアクセス権をあらかじめ定めた固定IPアドレスの端末からのみに制限することで、第三者からの不正なアクセスを防止できます。
ネットワーク機器アクセス時
社内のサーバーやストレージ、あるいは遠隔地に設置したIoT機器などのネットワーク機器に外部からアクセスする場合も固定IPアドレスが有効です。
例えば社内ファイルサーバーを運用しており、外出先からそのサーバーに接続したい場合を考えます。サーバー側とアクセスを許可する端末側の両方に固定IPアドレスを割り振っておけば、サーバーにアクセスできる端末を特定のIPに絞り込めるため不正アクセスを防ぐことができます。
同様に、工場設備やセンサー類などのIoT機器をリモート監視・遠隔操作する際も、通信相手のIPが固定されていることが望ましいです。機器登録時に固定のIPアドレスを設定・記録しておくことで、インターネット経由でも常に正しい宛先に接続でき、遠隔地からの操作や再起動が円滑に行えます。
このように、ネットワーク越しに機器へアクセス・制御する用途では固定IPアドレスが必要になるケースが多いのです。
関連記事:固定IP SIMとは?法人向けサービスの仕組みとキャリア比較
固定IPアドレス活用のメリット
固定IPアドレスを導入すると、動的IPにはない様々なメリットが得られます。特に重要なのはセキュリティ面の強化です。
固定IPならではの特徴を活かすことで、不正アクセスの早期発見や遮断が容易になるなど、ネットワークを安全に保つ助けになります。また、リモートアクセスの利便性向上など業務効率化にもつながります。以下に主なメリットを整理します。
第三者からの不正アクセスを防止・検知しやすい
固定IPアドレスを利用すると、アクセスを許可する相手を特定のIPに限定できます。例えば自社システムを固定IPを持つ社用端末からのみアクセス可能にする、といったIPアドレス制限(ホワイトリスト)が実現できます。
許可したIP以外の機器からは一切アクセスできなくなるため、外部の第三者による不正アクセスを未然に防げます。
万一、許可リスト外のIPからアクセスの試みがあった場合も、通信ログ上ですぐに判別できるため不審なアクセスに気づきやすいという利点があります。
リモートアクセスや外部連携が安定・容易になる
固定IPアドレスはインターネット上の住所が変わらないため、拠点間通信や遠隔操作が安定します。たとえば本社サーバーに対し支社から常時接続するような場合でも、IPが固定されていれば毎回同じ宛先に通信できるので接続性が高まります。
また、リモートデスクトップなどを使った社外から社内へのアクセスも、毎回同じIPで接続するため手順が簡略化されます。
サーバー運用やサービス提供に必須
先述の通り、自社でサーバーを運用して外部公開する場合に固定IPは欠かせないメリットと言えます。
IPアドレスが固定されていれば、独自ドメインをそのIPに紐づけて安定したサービス提供が可能です。反対に動的IPのままだとサービス提供中にIP変更が発生してしまい、DNSの再設定や利用者側の接続エラーが生じます。
したがって、安定したサーバー公開やクラウドサービス運営には固定IPアドレスが前提条件となります。
ビジネスシーンではこのように固定IPが「導入しなければサービス自体が成り立たない」場面も多く、企業活動のインフラを支える重要な役割を担っています。
固定IPアドレス活用のデメリット
一方で、固定IPアドレスには知っておくべきデメリットも存在します。
導入すれば万能というわけではなく、動的IPに比べて不便な点やコスト増、対応環境の制約などがあるため、事前に理解した上で導入判断をすることが重要です。
ここでは主なデメリットを解説します。
固定IPアドレスを提供していない場合がある
まず、利用中のインターネットプロバイダが固定IPアドレスサービス自体を提供していないケースがあります。
固定IPを使いたいと思っても、すべてのプロバイダでそのオプションが用意されているわけではありません。特に個人向け回線や安価なプランでは固定IP非対応の場合も多く、その際はプロバイダ自体を選び直す必要があります。
法人契約向けの光回線や一部のモバイル通信サービスでは固定IPオプションが提供されていますが、契約先が限られる点には注意が必要です。
今までの規格と新規格の互換性がない
現在インターネットのIPアドレスには従来の「IPv4」と新しい「IPv6」が混在していますが、IPv6はIPv4と互換性がありません。
例えばプロバイダの固定IPサービスがIPv4アドレスで提供されている場合、同時にIPv6による高速通信(IPoE方式など)を利用できないことがあります。
特に法人向けでは社内システムがIPv4前提で構築されていることも多く、固定IP導入時にIPv4/IPv6の対応状況を確認し、自社に適した方式を選ぶ必要があります。
■IPv4とは?
IPv4(Internet Protocol version 4)は、現在も広く使われている従来のIPアドレスの形式。
アドレスは「192.168.0.1」のように10進数の数字を4つ並べた形式(32ビット)で構成され、約43億個のIPアドレスを作成可能です。
〇形式例:192.0.2.1
〇アドレス数:約43億(2の32乗)
■IPv6とは?
IPv6(Internet Protocol version 6)は、IPv4に代わる次世代のIPアドレス規格。
アドレスは128ビットで構成されており、**事実上無限に近い数(340澗:3.4×10の38乗)**のIPアドレスを作成できます。
〇形式例:2001:0db8:85a3:0000:0000:8a2e:0370:7334(16進数で表記)
〇アドレス数:ほぼ無限(2の128乗)
料金が追加でかかる
固定IPアドレスを利用するには、通常の接続料金に追加オプション料金が発生します。多くのプロバイダでは固定IPが有料オプション扱いとなっており、月額で一定の料金を支払って契約する必要があります。
以下の表は、料金水準の一例です。
一つの契約で5個や8個の固定IPを割り当てるようなケースでは、オプション料金もその分高額になります。さらに、固定IP付きのモバイル回線では通常プランに比べ通信費用が割高になることもあります。
コスト面では動的IP利用時より負担増となる点を考慮し、得られるメリットとのバランスを検討する必要があります。
セキュリティを強固にする必要がある
固定IPアドレスはセキュリティ面のメリットがある一方で、固定されているがゆえのリスクにも注意しなければなりません。
IPアドレスが常に同じということは、悪意のある第三者から見ると標的を特定しやすいとも言えます。動的IPに比べ、「攻撃対象のIPを突き止められやすい」「一度知られたIPに繰り返し攻撃を受ける」リスクが考えられるため、固定IP利用時は万全なセキュリティ対策が必要になります。
固定IPアドレスの確認・設定方法
ここでは、実際に固定IPアドレスを確認する方法や設定する方法について説明します。自社のネットワークに固定IPを導入した場合、「現在のIPアドレスが何か」を把握したり、機器に正しくIPを設定したりする必要があります。基本的な確認・設定手順を押さえておきましょう。
固定IPアドレスの確認方法
① WindowsのPCの場合、キーボードの「Windowsキー + R」でファイル名指定の実行を開きます。
②「cmd」と入力してコマンドプロンプトを起動し、ipconfig
コマンドを実行すると、現在のIPアドレス情報が表示されます。
一覧に表示された「IPv4 アドレス」または「IPv6 アドレス」の欄にある値が、当該端末に割り当てられているIPアドレスです。
固定IPを利用している場合、この値は契約時に指定されたものと一致し、再接続しても変化しません。
Windows画面
Macの場合もターミナルでifconfig
コマンドを入力するか、アップルメニュー内「システム環境設定 > ネットワーク」から接続中のインターフェイスを選択してIPアドレスを確認できます。
なお、スマートフォンやタブレットでも専用のアプリや設定画面からグローバルIPアドレスを確認可能です。
固定IPアドレスの設定方法
続いて、機器へ固定IPを設定する方法です。
固定IP契約をするとプロバイダから「割り当てIPアドレス」「サブネットマスク」「デフォルトゲートウェイ」「DNSサーバー」等の情報が提供されます。
これらを各機器のネットワーク設定画面に入力していく形になります。
手順の一例としてWindows PCで固定IPを直接設定する場合を紹介します。
①「コントロールパネル > ネットワークとインターネット > ネットワーク接続」を開きます。
②固定IPを設定したいネットワークアダプタ(イーサネットやWi-Fi)を右クリックして「プロパティ」を選択します。
③表示された項目から「プロパティ」ボタンをクリックします。
④ネットワークの設定画面が開きますので、「IP割り当て」を編集します。
⑤プロバイダから指定された「IPアドレス」「サブネットマスク」「デフォルトゲートウェイ」「DNSサーバーアドレス」をそれぞれ指示通りに入力して保存します。
➅最後に、設定した固定IPアドレスで正常に通信できるか確認します。インターネットに接続してWebサイトが閲覧できるか、必要に応じて外部からそのIP宛てにアクセスしてみて応答があるかなどをテストしてください。
企業ネットワークでは、固定IPの設定は各端末ではなくルーターで行うことも多いです。社内のブロードバンドルーター(Wi-Fiルーター)自体に固定IPの情報を設定すれば、内部のPCや機器は従来通り自動取得(DHCP)でもルーター経由で固定IP通信が可能です。
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まとめ
本記事ではWi-Fiの固定IPアドレスについて、基本的な仕組みから活用シーン、メリット・デメリット、設定方法まで包括的に解説しました。
ビジネスにおいて、通信の安定性やセキュリティの確保は「気づいたときには遅い」ことが多いものです。そんなとき、固定IPアドレスは、ただの“アドレス”ではなく、“守り”と“つながり”を強化するための仕組みとして非常に有効です。
自社の業務に最適な形で取り入れながら、より安定した通信環境を整備していきましょう。