近年、テレワークの普及やIoTの活用、複数拠点の統合管理などにより、固定IPアドレスのニーズが急速に高まっています。
固定IPといえば、以前は光回線などの固定回線でしか実現できないものというイメージがありました。ところが近年では、モバイルルーターでも固定IPが利用可能になりつつあり、柔軟なネットワーク環境の構築が現実のものとなっています。
本記事では、モバイルルーターを導入する方法や活用シーン、選び方のポイントを徹底解説します。
導入時の注意点やおすすめのサービス・ルーター機種も併せて紹介しているので、法人用モバイル回線を検討中の方はぜひ参考にしてください。
固定IPアドレスとは何か?

インターネットを使うとき、パソコンやルーターには「IPアドレス」という番号が自動的に割り振られます。
これは、インターネット上で機器を識別するための番号で、「この通信はどの機器から来たか」「どこへ届けるべきか」を判断するために使われます。たとえるなら、ネット上での住所のようなものです。
多くの場合、このIPアドレスは毎回変わる「動的IP」が使われています。接続のたびに違う番号がつくので、特に意識することはありません。
一方で、「固定IPアドレス」はその名の通り、ずっと同じ番号を使い続けられる仕組みです。
つまり、いつでも決まった番号でつながることで、通信が安定し、セキュリティも管理しやすくなるというわけです。
特に最近は、テレワークやクラウドサービスの利用が増えており、会社の外から社内システムにつなぐ機会も多くなっています。そうした環境づくりにおいて、固定IPアドレスは非常に役立ちます。
関連記事:Wi-Fiの固定IPアドレスとは?メリット・デメリットや活用方法・確認方法を解説
モバイルルーターで固定IPは使えるの?

固定IPアドレスは、光回線のような固定インターネット回線でしか使えない」というイメージを持たれている方も多いかもしれません。
しかし近年では、モバイルルーターでも固定IPを利用できる仕組みが整ってきています。
仕組みとしては大きく2つの方法があります。
- 固定IP対応のSIMを使う方法
- VPNサービスを使って固定IPを付与する方法
順番に見ていきましょう。
① 固定IP対応のSIMを使う

もっともシンプルなのがこの方法です。
モバイルルーターに挿すSIMカードが、最初から固定IPアドレス付きで提供されているタイプを使えば、そのまま固定IP通信が可能になります。
現在では、法人向けに提供されている多くのモバイルSIMサービスが、固定IPに対応したオプションを用意しています。
プランによっては、1回線から利用できるものや、通信容量や用途(上り重視・常時接続向けなど)に応じた柔軟な選択肢が用意されており、用途に合わせた構成が組みやすくなっているのもポイントです。
セキュリティや通信の安定性を重視する企業や現場でも、以前に比べて導入しやすい環境が整いつつあります。
② VPNサービスを利用する

2つ目は、VPN(仮想専用線)を使って間接的に固定IPを利用する方法です。
VPNとは、インターネット上に自分専用の安全な通路をつくる技術のことです。
この通路を経由することで、遠く離れた場所からでも社内ネットワークに安全にアクセスできるようになります。
この仕組みを使えば、たとえモバイル回線や動的IPしか使えない環境でも、VPNの出口に設定された固定IPアドレスを使って通信することが可能になります。
つまり、モバイルルーター自体には固定IPが割り当てられていなくても、VPN経由で外部からのアクセスを安定させたり、接続元のIPアドレスを固定化したりすることができるのです。
固定IPアドレスのメリットと活用シーン

固定IPアドレスを使うことで、「いつでも同じ場所にアクセスできる」「接続元を特定できる」など、通信面での利便性と管理性が大きく向上します。
ここでは、実際の業務でどのように役立つのか、代表的な活用シーンとあわせて紹介します。
リモートワーク環境の整備
社外から社内ネットワークへ安全にアクセスしたい場合、VPNやリモートデスクトップの接続先を固定IPで指定することで、安定した接続とアクセス制限の強化が可能になります。
テレワーク中でも「社内と同じ環境」で業務を行える仕組みを、比較的シンプルな構成で実現できます。
監視カメラやIoT機器の遠隔管理
店舗や工場、施設に設置した監視カメラ・センサー機器などに、外部から安定して接続したい場合にも、固定IPは有効です。
動的IPの場合、接続先のアドレスが変わるたびに再設定が必要になりますが、固定IPであれば常に同じ宛先にアクセスできるため、運用が格段にラクになります。
拠点間のVPN構築
本社と支店、工場など複数拠点をVPNでつなぐ場合、通信先を固定IPで指定できると、安定性やセキュリティの面で大きなメリットがあります。
とくにモバイル回線を使う拠点でも、固定IPが使えることで柔軟なネットワーク設計が可能になります。
クラウドサービスへのIP制限
SaaSやクラウド型業務システムの中には、「特定のIPからのアクセスだけ許可する」といった制限をかけられるものがあります。
このような設定を行うには、接続元のIPアドレスが一定であることが前提となるため、固定IPがあることでクラウドセキュリティの強化につながります。
自社サービスやサーバーの運用
社内で小規模なWebサーバーやファイル共有環境を立てる場合にも、固定IPがあるとアクセスしやすく、DNS設定なども簡潔に行えます。
社内外からの接続が必要な業務システムや、遠隔から操作したいPCなどにも活用できます。
このように、固定IPは「通信の確実性」と「アクセス管理のしやすさ」が求められる業務で、大きな効果を発揮するツールです。
固定IPアドレス利用の注意点
固定IPアドレスには多くのメリットがありますが、導入前に知っておきたい注意点もいくつか存在します。
ここでは、特に中小企業で気をつけたいポイントを3つに整理して解説します。
追加コストがかかる
固定IP対応のSIMを使う場合、固定IPアドレスを使用するには月額料金に加えてオプション費用が発生します。
サービスによって異なりますが、月数百円〜数千円の追加費用がかかるケースが多く、初期費用が必要なこともあります。
以下は、固定IPオプションを提供している法人向け格安SIMの料金の一例です。
サービス名 | 基本プラン料金 (目安/税抜) | 固定IPオプション 料金 (月額/税抜) | 初期費用 (税抜) | 特徴 |
---|---|---|---|---|
ロケットモバイルZ | 下りプラン 3GB 1,100円~ | 632円 | 1,250円 | ドコモ・au・ソフトバンクに対応 10MB〜無制限まで柔軟な構成が可能 |
ASAHIネット LTE | 3GBプラン 900円~ | 800円 | 3,000円 | 固定IPは任意オプション 中小企業への導入実績多数 |
インターリンクLTE SIM | 3GBまで高速プラン 1,600円〜 | 固定IP込み | 3,000円 | 最初から固定IP付き プランに応じて高速通信も選べる |
※料金や条件は2025年7月時点の情報を元にした参考例です。
このように、サービスによって料金体系や付与条件が異なるため、導入前に「固定IPがオプション扱いか」「標準で付いているか」をしっかり確認しておくことが大切です。
また、回線速度やデータ容量の条件も合わせて比較し、利用用途に最適な組み合わせを選びましょう。
セキュリティリスクが増える可能性がある
固定IPは常に同じアドレスで通信するため、外部から狙われやすくなる側面もあります。
万が一IPアドレスが悪意ある第三者に知られてしまうと、不正アクセスや攻撃のリスクが高まります。
対策としては、ファイアウォールの設定やVPNの活用、アクセス制限の適切な運用が欠かせません。
初期設定や管理にやや知識が必要
固定IPを使ったネットワーク構成には、ある程度のIT知識や設定作業が必要になります。
たとえば、ポート開放やVPN接続設定、ルーターの管理など、手間がかかる場面も出てきます。
技術的な対応に不安がある場合は、サポートのあるサービスを選ぶか、専門業者に相談するのも選択肢のひとつです。
以上のように、固定IPには確かな利便性がある一方で、コスト・セキュリティ・導入の手間といった課題も伴います。
あらかじめ目的や使用環境を明確にしたうえで、最適な方法を選ぶことが、安心・安全な運用の第一歩です。
モバイルルーターに固定IPを付与する手順

ここからは、実際に「モバイルルーターで固定IPを使いたい」と思ったときの手順について、2つの方法に分けて解説します。
いずれの方法も、事前に準備すべきことや確認すべきポイントがあるため、導入前に全体の流れを把握しておくことが重要です。
固定IP対応のSIMカードを使う場合

ステップ①|固定IP付きプランのある通信会社を選ぶ
法人向けの格安SIMサービスの中には、固定IPアドレスをオプションとして提供しているものがあります。料金や回線(ドコモ・au・ソフトバンク)を確認し、自社の要件に合うものを選びましょう。
ステップ②|SIMフリー対応のモバイルルーターを用意
契約したSIMカードを使うには、通信キャリアが利用している周波数帯(バンド)に対応したルーターを選ぶ必要があります。
日本の主要キャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)では、以下のような周波数帯(バンド)が使われています。
キャリア | 主なLTEバンド |
---|---|
ドコモ | Band 1 / Band 3 / Band 19 |
au | Band 1 / Band 18 / Band 26 |
ソフトバンク | Band 1 / Band 3 / Band 8 |
ルーターがこれらのバンドに対応しているかを確認するには、製品ページの「仕様」や「スペック表」にある「LTE対応バンド一覧」をチェックします。

使いたいSIMカードのキャリアが使っているバンドに、ルーター側が対応していないと通信できないため、必ず照らし合わせて確認しておきましょう。
また、複数キャリアに対応したマルチバンド対応ルーターや、「国内3キャリア対応」と明記された製品であれば、基本的には安心して使えます。
ステップ③|SIMカードを挿してAPN設定を行う
モバイルルーターにSIMカードを挿入し、通信会社から提供されるAPN情報をルーターに手動で設定します(自動設定対応モデルもあり)。
APN設定とは、SIMカードがどの通信先(ネットワーク)とつながるかを指定するための設定項目です。
そのため、通信会社が指定するAPN情報を、モバイルルーターの管理画面等で入力してあげる必要があります。
設定画面では、以下のような情報を入力するケースが一般的です。
・APN(アクセスポイント名)
・ユーザー名
・パスワード
・認証方式(PAP / CHAPなど)
近年は、自動で設定される「APN自動構成対応ルーター」も増えていますが、マニュアル設定が必要な場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。
ステップ④|固定IPが正しく割り当てられているか確認
ルーターに接続された状態で、外部サイトなどからグローバルIPアドレスを確認します。事前に通知された固定IPと一致していれば設定完了です。
注意: 一部のSIMサービスでは、固定IPの利用には法人登録や追加審査が必要になる場合があります。
VPNサービスを利用する場合

モバイルルーターに直接固定IPを割り当てる代わりに、VPN(仮想専用線)を経由することで、間接的に固定IPを利用する方法もあります。
この方法では、インターネット上にあるVPNサーバーに固定IPを割り当て、そこを経由して通信を行うことで、外部からは「常に同じIPで通信している」ように見える仕組みです。
通信の出入口(出口IP)を固定化できるため、クラウドサービスやリモート接続のIP制限にも対応できます。
ステップ①|固定IP付きVPNサービスを契約
既存のネット環境やSIMカードをそのまま使いたい場合は、固定IPを付与できるVPNサービスを選びます。
ステップ②|PCやモバイルルーターでVPN接続を設定
VPNプロバイダーから提供される接続情報を元に、端末またはルーター側でVPN接続の設定を行います。事前に以下の情報を手元に用意しておきましょう。
・VPNサーバーアドレス(IPまたはホスト名)
・ユーザー名/パスワード事前共有キー(IPsecの場合)
・各種証明書
ステップ③|VPN経由で固定IPアドレスを使用
VPN接続が確立すると、インターネットへの通信はすべてVPNサーバーの固定IP経由で行われるようになります。
これにより、IP制限やリモートアクセスが可能になります。
たとえば社内システムやクラウドサービスに「このIPアドレスからだけアクセスを許可する」と設定しておけば、セキュアな接続環境が実現できます。
ステップ④|通信が安定しているか確認
VPN経由の接続が確立しているか、固定IPとして正しく認識されているかを外部ツールで確認しておくと安心です。
VPN方式のメリットは、既存のSIMや回線構成を変更せずに導入できる点です。ルーター側に直接固定IPが振られなくても、必要な通信だけをVPN経由にすることで、柔軟に構成を組めます。
VPNの種類と自社に合った選び方

VPN(仮想専用線)には複数の方式があり、それぞれ仕組みや特徴、向いている使い方が異なります。
「どれも似たような技術に見える」という印象を持たれるかもしれませんが、接続の安定性・セキュリティ・構築のしやすさ・コストなどに違いがあり、選定を誤ると後々の運用に支障が出ることもあります。
ここでは、代表的な4つのVPN方式の特徴について簡単に紹介しています。
主要VPN方式の比較一覧
方式 | プロトコル | 暗号化強度 | セキュリティ規格 | 対応機器 | 導入のしやすさ |
---|---|---|---|---|---|
L2TP/IPsec | L2TP + IPsec | ◎ | IPsec準拠 | Windows / macOS / iOS / Android(標準対応) | ○ (比較的簡単) |
OpenVPN | SSL/TLS | ◎ | TLS 1.2 / AES-256など | PC / スマホ(要クライアントアプリ) | △ (やや複雑) |
PPTP | MPPE + GRE | △ | 旧規格 (セキュリティ非推奨) | 旧OSや一部ルーター(※サポート終了傾向) | ◎ (非常に簡単) |
WireGuard | UDP(ChaCha20、Poly1305) | ◎ | モダン暗号 標準準拠 | Linux / 一部のルーター / スマホ(要アプリ) | △ (設計はシンプル・技術知識要) |
どのVPN方式を選ぶべきか?判断のポイント
どの方式が最適かは、「何を重視するか」で大きく変わってきます。以下の視点から、自社に合った方式を選びましょう。
導入の簡単さを重視するなら「L2TP/IPsec」
OS標準で対応しているため、追加ソフト不要で手軽に導入可能。テレワークや小規模オフィスに最適です。
セキュリティ対策を最優先するなら「OpenVPN」
高度な証明書認証や暗号化方式に対応。社外との接続を厳密に管理したい場合に有効です。
通信の高速化や開発・軽量構成を求めるなら「WireGuard」
最新プロトコルによる高速・省リソース設計が魅力。IoTやリモート監視用途にもおすすめです。
一時的な検証や個人利用なら「PPTP」
企業利用においては、PPTPは避け、他の方式を選ぶのが安全です。
現在のセキュリティ要件では推奨されないため、早めの移行を検討しましょう。
「自社でゼロからVPNを構築するのは難しい」「設定のミスやセキュリティが不安」という場合は、あらかじめ固定IPとVPN環境が整った法人向けSIMサービスを活用するのも有効です。
法人向け固定IPアドレス付きSIMならロケモバZ

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☑ VPN・MDM・固定IPなどのビジネス向け機能対応
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〇業務用に最適な高速・安定通信
通信量が多い業務にも対応可能な大容量・高速プランを提供。安定性を重視した回線設計で、ビジネスの生産性向上に貢献します。
〇固定IP対応で遠隔アクセスやシステム連携にも強い
ロケモバZは固定IPアドレスに対応しており、社内システムや監視カメラ、VPNとの連携など、外部からのセキュアな接続を必要とする用途に最適です。
〇セキュリティ&端末管理機能も充実
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まとめ
ネット環境をより柔軟かつ安心して活用するための手段として、IPアドレスを固定化する方法や、接続経路をコントロールする仕組みへの関心が高まっています。
特に拠点が分かれていたり、外部との通信に慎重な姿勢が求められたりする場面では、あらかじめ通信の出口や接続条件を設計しておくことが重要です。
手段としては、専門的な機器を構成する選択肢もあれば、サービス側で機能が整っているタイプを選ぶという考え方もあります。
大切なのは、「何のために使いたいか」を明確にしたうえで、自社の規模・体制・運用フローにフィットするかどうかを見極めることです。
シンプルに始める方法も、堅牢さを重視する構成も、いまでは無理なく選べる時代です。
まずは一歩踏み出して、自社にとって最適な形を見つけていきましょう。